
2026年6月18日、一般社団法人AgVenture Labは、「サステナブルガストロノミーの日 記念イベント 2026」を開催しました。
毎年6月18日は、国連が定めた「サステナブルガストロノミーの日」です。サステナブルガストロノミーとは、環境への配慮だけでなく、地域の食材や食文化、生産・流通、日々の食卓までを含め、食の営みを持続可能な形で未来へつないでいく考え方です。
本イベントは、東京都のスタートアップ支援事業「TIB CATAPULT」におけるSustainable Agritech & Foodtechクラスターの活動テーマ「サステナブルガストロノミー」を幅広い実践者とともに考える場として実施しました。当日は、スタートアップ、事業会社、行政・自治体、研究・教育機関、業界団体など、多様な領域から参加者が集まりました。
世界の食料安全保障から、私たちの食卓を考える
基調講演には、FAO(国際連合食糧農業機関)駐日連絡事務所長の日比絵里子氏が登壇。「世界の食料安全保障と私たちの食卓の将来」をテーマに、世界の食料を取り巻く現状を紹介しました。 
食料安全保障は、食料が生産・供給されるだけでは成立しません。十分な量と質の食料があることに加え、必要とする人が価格や距離などの面で無理なくその食料を入手できること、栄養や衛生の知識をもって適切に食卓に乗せられること。そして、その状態が継続的に保たれることが必要です。日比氏は、こうした複数の側面から食料安全保障を捉える必要性を解説しました。
また、気候変動とそれに伴う異常気象、紛争、経済的なショックなどは食料の生産や流通だけでなく人々の所得や購買力にも影響します。一方で、食料の生産・流通・消費からなる食料システムも環境に負荷を与える側面を持っています。食と環境や社会は一方向の関係ではなく、互いに影響し合うものです。だからこそ、個別の生産技術や商品だけを見るのではなく、食料システム全体を捉え、多様な主体が協働して変えていくことが欠かせません。その中で、新しい技術や事業のあり方を生み出すイノベーションへの期待も示されました。
持続可能な生産を、続けられる事業にするには
1つ目のセッション「生産現場から考える、食の未来とお金の話」では、GOODGOOD株式会社 代表の野々宮秀樹氏と、群馬県農政部農業構造政策課の秋山礼伊氏が登壇。一般社団法人AgVenture Lab 執行役員の上岳史がモデレーターを務めました。 
議論の出発点となったのは、「持続可能な生産」を環境面だけでなく、産業として捉える視点です。生産者が営農を続けるためには、まず所得を確保できることが欠かせません。秋山氏からは、行政の立場から農業所得を高める必要性が示されるとともに、収量とコストの双方に関わる土づくりの重要性や、新しい技術を経営にどう取り入れるかといった現場の課題が語られました。
野々宮氏は、生産と消費を結びつけることで、生産者の所得と消費者の理解をともに高めていく事業の考え方を紹介しました。農産物を生産・販売するだけでなく、教育や研修、現地を訪れる人との接点などを組み合わせ、農場や地域が持つ価値を複数の収益につなげていくことも経営を持続させる一つの方法です。 
また、優れた技術や環境負荷の低い生産方法があってもそれだけで普及するとは限らない点も指摘されました。導入効果を示すデータ、先行事例、経営者の判断、現場の技術導入を支える人材が必要です。行政、企業、スタートアップなど、異なる立場のプレイヤーがそれぞれの強みを持ち寄り、技術の導入から販路、担い手づくりまでを支えることが現場に合った選択肢を増やすことにつながります。
「サステナブルだから」ではなく、日常で選ばれる価値を
2つ目のセッション「選ばれるサステナブル ― あたりまえになる日々の食事へ」には、一般社団法人Chefs for the Blue 代表理事・フードジャーナリストの佐々木ひろこ氏と、株式会社ovgo 代表取締役の髙木里沙氏が登壇。株式会社STUDIO HOLIDAYの安達睦氏が進行しました。 
佐々木氏は、料理人とともに海の課題を伝えてきた活動を踏まえ、レストランや店舗を、料理のおいしさだけでなく、空間、接客、言葉などを通して食の背景を伝えられる「メディア」として捉える視点を紹介しました。また、伝える相手や媒体に合わせて言葉を選び、「サステナブル」という抽象的な言葉を、魚を「ずっと食べ続けられる」といった暮らしに引き寄せた表現に置き換えることの大切さも語られました。 
髙木氏はプラントベースのクッキーやマフィンを、我慢や制限のための食ではなく、おいしさや楽しさから選べる商品として届けてきた経験を共有しました。店舗では、もともと顧客だったスタッフが自分の好みや実感を交えながら商品を紹介することも多く、その対話自体が体験価値やコミュニティ形成につながっているといいます。一方で、商品をより広めるために、手に取りやすい価格で届けるには、プラントベースに対応した製造環境や量産体制など供給側の基盤づくりも課題として挙げられました。
若い世代にとっては、環境や社会に配慮することがすでに当たり前になりつつあり、あえて「サステナブル」を切り出して訴求することに距離を感じる場合もあります。理念を前面に押し出すだけでなく、まず食べたい、利用したいと思える商品や体験をつくること。そして、背景にある課題や取り組みを相手に届く言葉で誠実に伝えること。その積み重ねが、持続可能な選択肢を日常へ広げる力になります。
8社が示した、持続可能な食の実装
後半の「サステナブルガストロノミーピッチ」には、8社・団体が登壇しました。
各社のピッチでは、それぞれが着目する課題と、社会に届けるための具体的な方法が紹介されました。

合同会社シーベジタブルは、海藻の生産から新たな食べ方の提案までを通じ、海藻を未来の食文化として育てる取り組みを紹介しました。

株式会社BGは、野菜を育てる土壌の状態・価値を可視化し、生産現場と消費者をつなぐアプローチを発表しました。

株式会社ディッシュウィルは、将来のたんぱく質需要を見据え、大豆の生産からプラントベースフードの開発までを手掛け、おいしい選択肢を広げる事業を紹介しました。

株式会社NewClassicは、国産トウモロコシを使ったコーントルティーヤを軸に、一過性のブームではない新しい日本の食文化をつくる構想を語りました。

ディーツフードプランニング株式会社は、こんにゃくとおからを生かした次世代フードの開発を通じ、おいしさ、健康、環境への配慮を両立する商品づくりを紹介しました。

旅するおむすび屋は、全国の生産者や郷土料理の担い手を訪ね、地域の知恵や食文化をおむすびやレシピ、企業との商品開発へつなげる活動を発表しました。

株式会社オリゼは、日本の発酵文化である米麹を生かした発酵甘味料を開発し、米の新たな需要と砂糖に代わる選択肢をつくる取り組みを紹介しました。

株式会社Beer the Firstは、廃棄される素材や十分に活用されていない食材をクラフトビールへ変え、楽しみながら食品ロスの問題に触れられる機会を生み出しています。
扱う素材も、技術も、届け方も異なります。一方で、環境や地域への配慮を理念にとどめず、実際に「食べられるもの」「買えるもの」「事業として続くもの」へ変え、社会に届けようとする姿勢は共通していました。
食べて、話して、次の連携へ
ピッチ後のブース展示では、各社の試食・試飲を提供しました。参加者は商品を味わいながら、開発の背景や原材料、生産現場の課題について出展者と直接対話しました。

会場で生まれた対話をその場限りで終わらせず、参加者の家族や友人、同僚との会話へ広げるきっかけとして、お土産も用意しました。株式会社ovgoの「インポッシブルチョコレートチップクッキー」と株式会社グリーンエースの「アップサイクルふりかけ」を株式会社ライスレジン協賛の、お米からできた袋に入れて配布しました。

サステナブルガストロノミーは、一つの正解を提示する言葉ではありません。生産、流通、調理、消費、文化など、異なる場所で活動する人々が、それぞれの実践を持ち寄り、次の選択肢へつないでいくためのキーワードです。
AgVenture Labは今後も、Sustainable Agritech & Foodtechクラスターの活動を通じて、農業・食・サステナビリティ領域のスタートアップと多様なプレイヤーをつなぎ、事業連携、実証、共創が生まれる機会をつくっていきます。

開催概要
・イベント名:サステナブルガストロノミーの日 記念イベント 2026
・開催日:2026年6月18日
・主催:一般社団法人AgVenture Lab
・後援:フードテック官民協議会、一般社団法人日本飲食団体連合会
・協賛:株式会社ライスレジン
