牧草をむしゃむしゃ食べる牛。近づくと、まつげがやたら長くて、びっくりするくらいかわいい。しかも、ちゃんと目が合う。
「子牛の時は100回なでるって決めてるんですよ。毎日触るのも意識してて」
そう笑うのが、株式会社CowCowCompanyの代表・山田陽介さんだ。

人口減で増える耕作放棄地は、普通なら“課題”に見える。でも佐渡では、その土地が“牧場”として息を吹き返す。牛が草を食べ、景色が保たれ、冬の餌は島内の稲作で支えられる。最後は皿の上の「食」へ。
サステナブルガストロノミーは、料理の美しさだけじゃない。土地の使い方、資源の回し方、人の関わり方まで含めて“味わう”こと。佐渡の放牧には、その入口がある。
1. 「牛を飼いたい」から始まった——未利用地が循環の起点になる
きっかけはシンプルに「牛を飼いたい」。山田さんが相談した相手の一人が、当時佐渡市の農業政策課で畜産に関わっていた坂下さんだ。
牛舎は匂いやハエの問題が出やすく、場所探しが難航した。そこで見つかったのが、条件が厳しく畑になりにくい未利用の耕作放棄地だった。だからこそ「放牧」という選択肢が立ち上がる。
坂下さん:「牛舎だと匂いとかハエとかで環境問題になりやすい。場所探しがいちばん大変でした。そこに八幡の未利用地が見つかった。ここをなんとか活かせないかって」

2. 佐渡の放牧の「型」と、通年放牧という例外
佐渡の放牧には島としての“型”がある。夏は稲作で忙しく管理が難しいため、市営放牧場のある「山」へ預け、冬は「里」で家のそばで飼う。地域インフラが支える仕組みだ。
一方、CowCowCompanyは通年放牧を行っている。
山田さん:「通年放牧は、新潟県内で自分たちだけしかない。佐渡の中でもさらに珍しいスタイルです。」
通年放牧の鍵は、夏の風景よりも「冬をどう越すか」にある。

3. 通年放牧を支える「冬」——稲が牛をつなぎとめる
冬の要は餌づくりだ。稲わらやWCS(ホールクロップサイレージ:稲を丸ごと発酵させたもの)が、通年放牧の下支えになる。
坂下さん:「佐渡には稲を丸ごと発酵させるホールクロップサイレージがある。転作もあって、牛飼い以外の農家さんが稲を生産することもある。その稲わらをもらい冬の餌にする」
稲作と畜産がつながることで、島の中で資源が回り始める。ただし、島内で完結しないものもある。トウモロコシなど穀物は作りにくく、外部(輸入)に頼る部分が出る。
すべてを島内で完結することにこだわるのではなく、できることを見極めて島内循環を回すのがポイントだ。加えて、配合飼料・燃料・資材の高騰が続くいま、放牧が「省力・低コストな体系」として役に立つ。

4. 体験が「循環の入口」になる——皿の上に時間を運ぶ
山田さんが繰り返すのは、牛飼いの3Kイメージを変えたいという思いだ。
「牛って、かわいいんですよ。まつげが長い。動作が面白い」
牛に触れ、餌をやり、近くで見る。その体験が、畜産を「遠い仕事」から「身近な営み」に変える。
「子牛の頃は100回なでる」。この“手触り”が、食の背景を身体で理解する導線になる。
牛に触れる時間、草を食む時間、冬の餌を用意する時間、稲が育つ時間——それらが最終的に、皿の上へ運ばれる。

まとめ:島の「稲と牛」を、食文化へ
「牛飼い全体が儲かるようにしたい」「みんなで飼えるようにしたい」
カウカウカンパニーが見ているのは、1軒の成功ではなく島全体の底上げだ。
耕作放棄地が牧場になる。稲が冬の餌になる。体験が関係人口を生む。
佐渡の通年放牧は、島の資源と人の関係をつなぎ直し、皿の上の“おいしさ”を循環として語れる形にしている。
